精子提供・卵子提供による治療、代理出産を考える

日本におけるドナー精子、ドナー卵子による生殖補助医療

2003年に厚労省の審議会から方向性が示されるも、法制化は進まないまま

現在、日本では、生殖補助医療に関する法整備がなされていません。そのため、夫婦間の配偶子(精子や卵子)や胚を用いた不妊治療は、『日本産科婦人科学会』の会告(ガイドライン)に沿って実施されています。

一方、『精子提供』や『卵子提供』による『非配偶者間体外受精』や『代理出産(懐胎)』に関しても、体外受精を夫婦に限定するという日本産科婦人科学会が1983年に出した会告にのっとり、ごく一部の医療機関での実施を除いて自主規制がなされている状況です。

また、親子関係を定める民法も、第三者の配偶子が提供されて妊娠することなど、まったく想定していなかった明治時代につくられたもののままなのです。

21世紀になってからは、法整備に向けて、厚生労働省、法務省、日本学術会議などが、法学、医学、生命倫理などの専門家を集めた委員会を設け、審議を繰り返し、その都度、次のような報告書を提出してきました。

<2003年 厚生労働省 厚生科学審議会生殖補助医療部会
最終報告書『精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書』の重要ポイント>
・第三者の精子・卵子・胚の利用は、「法律上の夫婦」に限る
・精子・卵子・胚を提供する場合には匿名とする
・匿名での提供がない場合に限った兄弟姉妹等からの提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療は、当分の間、認めない
・生まれる子の出自(ページ内リンク)を知る権利も認める
・代理懐胎は禁止する

<2003年 法務省 法制審議会生殖補助医療関連親子法制部会
中間試案『精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療により出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する要綱中間試案』の重要ポイント>
・母子関係「女性が自己以外の女性の卵子(その卵子に由来する胚を含む。)を用いた生殖補助医療により子を懐胎し、出産したときは、その出産した女性を子の母とするものとする」
・父子関係「妻が、夫の同意を得て、夫以外の男性の精子(その精子に由来する胚を含む。)を用いた生殖補助医療により子を懐胎したときは、その夫を子の父とするものとする」

<2008年 日本学術会議 生殖補助医療の在り方検討委員会
対外報告『代理懐胎を中心とする生殖補助医療の課題―社会的合意に向けて―』の重要ポイント>
・代理懐胎については、法律(例えば、生殖補助医療法<仮称>)による規制が必要であり、それに基づき原則禁止とすることが望ましい
・先天的に子宮をもたない女性及び治療として子宮の摘出を受けた女性に対象を限定した、厳重な管理の下での代理懐胎の試行的実施(臨床試験)は考慮されてよい

これらの検討を受けて、2016年には、与党が議員立法で親子関係を定める特例法案を作りましたが、結局、国会には提出されませんでした。

国内の一部の医療機関で実施されている非配偶者間体外受精

『精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書』が出されて3年が経過した2006年のこと、『JISART』(日本生殖補助医療標準化機関/不妊治療を専門とするクリニックによって結成された団体/ページ内リンク)会員の2施設から卵子提供による非配偶者間体外受精を実施したいとの申し出が同会になされます。

2007年、JISARTから厚生労働省、日本産科婦人科学会、日本学術会議に対して回答期限を6ヶ月とした実施承認についての申請が出されますが、結果的に明確な承認も否認も得られない状況のまま、2008年、実施に踏み切ります。JISARTは、「匿名の提供者がいない場合、姉妹・親戚・友人からの提供を認める非配偶者間体外受精実施に向けた制度整備の実現を強く要望する所存であります 」との要望を添えて、厚生労働省に卵子提供体外受精の実施を通知しました。

2012年には、『ターナー症候群』や『早発閉経』によって、若くして自身の卵子による妊娠が難しいことが判明し、卵子提供を希望される方(レシピエント)のために、卵子提供登録支援団体『NPO法人OD-NET』が設立されます。ドナー登録を募り、レシピエントとのマッチングを行ったのち、協力団体であるJISARTに非配偶者間体外受精を依頼するかたちで支援を続けてきました(現在OD-NETはレシピエント登録を中止しています)。

2007年〜2018年10月までの約10年間に、JISART 会員のうちの5施設だけで、83件の非配偶者間体外受精が実施され、これまでに合計56人の赤ちゃんが生まれています。

【非配偶者間体外受精のガイドラインの違い】

日本の法整備が進まない間にも、夫の精子や妻の卵子での妊娠が期待できず、それでも赤ちゃんが欲しいと望んだ夫婦が、精子提供・卵子提供での不妊治療を希望されて、国内の限られた医療機関や海外の実施施設で非配偶者間体外受精を受けることで、出産されています。

国内での非配偶者間体外受精と、海外での非配偶者間体外受精には、レシピエント(提供を受ける側)、この治療によって誕生する可能性のある子ども、そして場合によってはドナー(提供する側)の未来にも大きく影響するガイドラインの違いがあります。

非配偶者間体外受精や代理出産を一つの選択肢として検討されている方は、各国の法制度や運営団体のガイドラインの違いや、メリットとデメリットをよく調べたうえで、十分に比較検討してください。

法整備と運営
日本人が卵子提供などの治療を受けるために渡航している海外諸国の中には、生殖医療に関する法整備が進んでいるところと、法制化がなされていない国があります。
また、運営も私営の仲介業者(エイジェンシー)が行っていたり、各クリニックや団体などの法人営であったり、さらには国営で行われていたりと様々です。

どのような人をレシピエント(提供してもらう側)として認めるか
『非閉塞性無精子症』で精巣内にも精子が見つからなかった場合には、残念ながら夫の精子を使った不妊治療を受けることはできません。
また『ターナー症候群』や『早発閉経』などの場合にも、妻の卵子を使った治療で妊娠することは、かなり難しくなります。
さらに、先天的、後天的な理由から子宮がない場合には、逆に妻の卵子が得られるケースはあっても、妻のおなかで育てて出産するということができません。
このように「精子がない」「卵子がない」「子宮がない」という方に対しては、提供精子、提供卵子による不妊治療、代理出産(懐胎)という選択肢がある国もありますが、日本では法整備がなされておらず、非配偶者間体外受精を受けられる施設は、ごく一部に限られています。また、代理出産に関しては厚生労働省の審議会も、日本学術会議も、原則禁止との報告書を提出しています。
また、加齢による卵子の質の低下などが理由と考えられるケースで、何度、配偶者間の体外受精を行っても妊娠が難しいケースがあります。このような方々をレシピエントとして認めるかどうかは、団体や国によって考え方が分かれます。例えば、日本のJISARTでは「加齢が妊娠できない理由ではない」ことをレシピエントの条件としています。

さらに、子育ての期間を考慮してレシピエントの年齢制限を40歳未満と決めている団体もあれば、レシピエントの年齢に制限を設けていない国もありますし、法律上の婚姻関係にあるかどうかの厳密さ、パートナーが同性のケースを認めるかなど、レシピエントとして認められる条件も様々です。

どのような人をドナー(提供する側)として認めるか
<匿名か非匿名か>
ドナーの条件として、団体や国による決定的な違いとしてあげられるのが、匿名か、非匿名(顕名)かという点です。
日本の場合、厚生労働省の審議会からは匿名が望ましいとの報告書が出されていますが、現在のところ、国内ドナーのほとんどはレシピエントが依頼した血縁者であるため、レシピエントはドナーが誰であるか把握しており、非匿名(顕名)となっているのが実情です。

<有償か無償か>
現在、日本のごく限られた医療機関で行われている第三者の配偶子を用いた生殖補助医療では、ドナーには、配偶子提供のために受ける医療行為の実費、万が一、合併症を起こした場合の治療費以外に、対価が支払われることはありません。つまり、無償であり、完全なボランティア行為として行われています。
ただし、海外諸国には、ドナーを有償で募集している国もあります。

<年齢、そのほか>
卵子提供に関しては、ドナーの条件に厳しい年齢制限を設けている国が多く、中には20歳から30歳までとする国もあります。日本のJISARTとOD- NETは40歳(原則35歳)未満となっています。

また、『JISART』と『NPO法人OD-NET』のガイドラインでは、ドナーに結婚歴があり、すでに自身の子どもがいることなども、原則の条件として加えられています。独身者がドナーとなった場合、万が一、将来、自身の子が得られなかったときに、問題となるケースが皆無とはいえない点を懸念してのことでしょう。

ドナーの選ばれ方の違い
日本では、匿名が望ましいとされてはいるものの、『JISART』ではレシピエント自身がドナーとなる友人や血縁者を探してくる必要があり、非匿名となっています。匿名性を尊重する考えの『NPO法人OD-NET』では、マッチング委員会が卵子提供登録者の中からドナーを選択するかたちになっていますが、現在、レシピエントの登録は受付を中止している状況です。

諸外国の中には、ドナーは匿名とし、非配偶者間体外受精を実施する各病院がレシピエントとドナーのマッチングを行う国があったり、ドナーの情報(基本的には匿名)が書かれたパンフレットを見て、レシピエントがドナーを選択する国があったりと、ドナーの選ばれ方には大きなガイドラインの違いが見られます。

出自を知る権利
1989年11月20日国連総会において批准された児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)第7条には「子はできる限りその父母を知り、かつ父母によって養育される権利を有する」とあります。この「子はできる限りその父母を知り」という部分が、『出自の権利』です。

『JISART』と『NPO法人OD-NET』のガイドラインでは、非配偶者間体外受精で誕生した子が15歳以上になった際に出自を知ることを希望した場合には、その権利が認められるとしています。
なお、オランダ、ノルウェー、イギリス、オーストラリアの一部の州、ニュージーランド、フィンランドなどでは「出自を知る権利」が、すでに法制化されていますが、あえて出自を知る権利(遺伝学上の親を知る権利)を認めないと法律で定めている国もあります。

なお、諸外国(イギリス、フランス、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、ノル ウェー、韓国、ベルギー、アイルランド、ドイツ、オーストラリア、ニュージーラント、米国)の実情は、厚生労働省平成 26 年度児童福祉問題調査研究事業『諸外国の生殖補助医療における出自を知る権利の取扱いに関する研究』(金沢大学 日比野由利ほか7名による共著/2015年3月)に詳しく書かれています。

また巻末資料には、アジア諸外国を含め、各国の状況が比較できる「年表」「生殖補助医療法制」「配偶提供の実施体制」「出自を知る権利に関する制度」「配偶子提供・出自を知る権利に関する事件・事件」などがまとめられていますので、夫婦で検討を重ねる際には、ぜひご一読ください。

用語集

精子提供

精液中に精子がない無精子症の方で、精巣からの精子回収手術を受けたけれども、精細管からも精子がまったく見つからなかったという場合には、残念ながら夫の遺伝子を受け継ぐ子どもは授かることができません(国内でも、精子の前段階の精子細胞を用いて顕微授精を行い、児が誕生している施設も存在しますが、日本産科婦人科学会は1997年に臨床応用には時期尚早との見解を示しています)。
このような場合の選択肢の一つに、夫以外の男性から精子の提供を受けて非配偶者間人工授精(AID)を行うという道があります。AIDは、国内では1948年に慶應大学病院で始まり、すでに1万人以上が生まれているといわれています。
現在、AIDを実施する医療機関は、日本産科婦人科学会への登録制になっています(2018年月時点で12施設が登録されていますが、2018年11月、AID実施の先駆的な存在である慶應大学病院が、ドナー不足のためAIDの中止を発表しました)。
子の出自を知る権利が守られるかたちでの実施が望ましいとして、厚生労働省の部会より2003年に報告書が提出されていますが、未だ法制化されていません。

卵子提供

加齢により卵子の質が低下してしまうと、卵子由来の染色体異常が増えることから、体外受精などの生殖補助医療(ART/アート)を繰り返しても妊娠が難しくなります。このように卵子の老化が深刻な例、早発閉経になった例、生まれつき卵巣がない例などでは、若い女性からの卵子提供による体外受精で妊娠を目指す以外、夫と血縁関係にある子どもを得ることはできません。

現在、日本では、卵子提供についても法制化がなされておらず、体外受精を夫婦に限定するという日本産科婦人科学会が1983年に出した会告にのっとり、ごく一部の医療機関を除いては、自主規制を行っている状況です。
2003年、厚生労働省の審議会が法制化を目指して出した結論は、条件つきで卵子提供による体外受精を容認するものでしたが、未だ法律は成立していません。一方、厚生労働省は、「精子・卵子・胚の提供による生殖補助医療」については制度が整備されるまで、実施を控えるよう学会に求めました。このような状況の中、他国に出向いて卵子提供を受ける、国内の特定の不妊治療施設を頼る、といった選択肢を選ぶ、ご夫婦もいます。

非配偶者間人工授精(AID)

無精子症と診断された場合に、夫以外のドナー男性から精液の提供を受けて行う人工授精のことを非配偶者間人工授精(AID)といいます。少なくとも妻との遺伝的つながりのある児を得たいという希望がある場合に、選択されることがあります。AIDを実施する施設は、日本産科婦人科学会への登録制になっており、限定されています。

非配偶者間体外受精

夫以外のドナー男性から精子の提供を受けて妻の卵子に注入する顕微授精(体外受精で行う施設も)、妻以外のドナー女性から卵子の提供を受けて夫の精子を媒精する体外受精で得られた受精卵(胚)を妻の子宮内に移植して妊娠を期待する治療方法を、非配偶者間体外受精といいます。少なくとも夫婦いずれか一方との遺伝的つながりのある児を得たいという希望がある場合に、選択されることがあります。

代理母

出産後に、依頼者に引き渡すことを約束して、妊娠・出産を請け負う女性のこと。体外受精で得た、依頼者(遺伝的な父母)の受精卵を、子宮内に移植し、妊娠を期待するホストマザー(俗称:借り腹)と、依頼者の精子を人工受精によって子宮内に注入し、代理母の卵子との受精、妊娠を期待するサロゲートマザーがあります。
日本では、代理母出産(代理懐胎)についても、日本産科婦人科学会が1983年に出した会告によって、自主規制が行われています。
2003年には、厚生労働省の審議会も、妊娠・出産により代理母が負うリスクの存在をおもな理由に認めないという結論を出しました。
それでも、未だ法制化が進まない中、他国に出向いて代理母出産を依頼する、国内の特定の不妊治療施設(独自の理念により実施)を頼る、といった選択肢を選ぶご夫婦もいます。
現在の法律では、分娩を行った女性が子の母親となります。そのため、代理母出産で生まれた子どもを依頼夫婦が自分たちの籍に入れるためには、仮に本当の遺伝的な父母であるケースであっても、養子縁組または特別養子縁組を行う必要があります。

出自

出自とは、いわゆる「生まれ」のこと。「提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療により生まれた子が出自を知る権利を行使することができるためには、親が子に対して提供により生まれた子であることを告知することが重要である」として、提供を希望する親には出自の告知に関するインフォームド・コンセントを義務づけるための法制化が必要だという報告書が、厚生労働省の部会より2003年に提出されています。

リンク集

2003年 厚生労働省 厚生科学審議会生殖補助医療部会
『精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書』

2003年 法務省 法制審議会生殖補助医療関連親子法制部会
精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療により出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する要綱中間試案

2008年 日本学術会議 生殖補助医療の在り方検討委員会
代理懐胎を中心とする生殖補助医療の課題―社会的合意に向けて―

2015年 厚生労働省 平成26年度児童福祉問題調査研究事業
諸外国の生殖補助医療における出自を知る権利の取り扱いに関する研究

卵子提供を考える
ヨーロッパの不妊治療クリニックで医療コーディネーターとしての勤務経験のある、ファティリティカウンセラー越智彩霧さん寄稿。

JISART(日本生殖補助医療標準化機関)
精子・卵子の提供による非配偶者間体外受精

※なお、JISARTでは、2007年〜2018年10月までに83件の非配偶者間体外受精が実施され、これまでに合計56人の赤ちゃんが生まれています。JISARTのガイドラインにおいても匿名の第三者が望ましいとされていますが、やむを得ない場合はJISARTの倫理委員会の判断を仰いだうえで顕名のドナーも許可されています。結果的には、これまでに実施された非配偶者間体外受精のドナーのほとんどは兄弟、姉妹という状況にあります。

NPO法人OD-NET 卵子提供登録支援団体
(2018年11月現在 ドナー登録募集中。レシピエント登録受付停止中)

情報更新日:2021年12月9日


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